『田園の詩』NO.61 「福 餅」 (1997.1.7)


 テレビの中で晴れやかに見られるような正月風景は、私の住む山里には全くありま
せんが、それでも正月を迎える準備で年の暮れは何かと忙しいものです。

 日本の習慣では、餅は正月のお供えとして欠かすことはできません。都会では餅屋
に頼んだり店に売られているのを買ったりするのでしょうが、田舎ではまだまだ自分
の家で餅つきをします。

 今はほとんど機械でつくようになりましたが、それでも臼と杵でついている風景も
たまに見受けられます。

 さて、この餅つきを何日にしたらいいかが問題なのです。大晦日は除夜の鐘の準備
もあるし、押し迫って到底ダメ。30日は女房がおせち料理に取り掛かるので無理。
28日は少し早すぎる。29日の午前中に餅つき、午後買出し、これがベストなのです。

 それで我が家では29日に餅つきをしていたのですが、いつだったか「29日に餅を
つくものではない」という情報が耳に入りました。

 9が≪苦≫につながり≪苦餅≫になる。そんな縁起の悪い餅をつくと苦労が身につ
く…。こんな俗信があるのです。

 聞き歩いてみたら、私のように何も知らない人や気にしない人は別として、当地
(大分県)では、29日の餅つきはしない家が多いようです。

 そんな折り、ラジオで「29日に必ず餅をつく」地方がある(どこだか忘れました
が日本中でもごく少ないと思います)ことを知りました。2と9で≪福≫になる。
≪福餅≫なので縁起が良いという訳です。

 私は積極的に良い方に解釈するこの≪福餅≫に大賛成です。ちなみに≪苦餅≫と
いう場合、2は何処にやってしまったのかと言いたくもなります。

 そんな訳で、我が家では日時的にもベストである29日に≪福餅≫をつきます。
そして裏山にいくらでもあるウラジロを取って来て正月のお供えとします。


     
    餅の写真が間に合わなかったので、裏山のヒノキ林のウラジロの写真をのせます。
                                   (09.1.30写)


 もらい歩いたカレンダーを全部1月にし、女房の極上のおせち料理を味わいながら、
私の新しい年が始まります。              (住職・筆工)

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